ドリブル

あはははは。と遠くのほうから聞こえる自分の笑い声を聞きながらテーブルの上の強いお酒をちびちび飲む。飲み物を口に運ぶ以外にすることがないので、グラスが空になってしまうと地蔵のように固まるしかない。皿は既に空になっている。

顔見知り程度の人と食卓を囲むのが苦手だ。感じの悪くない反応、おれは君達の敵じゃないとわかる反応をするつくりものの自分を盾にして、一生懸命 心の中の喜怒哀楽の火が消えてしまわないように薪とかをくべたり空気を送り込んだりしているのだが、気がついたら胸のあたりから頭のてっぺんにかけてさーっと冷たくなっていて記憶が飛んでいたりする。目の前の人がしている話がおもしろいとかおもしろくないとか以前に、ルールがわからない。なぜその話をするのか、それに対してなぜそんな話を返すのか、そしてなぜそこで笑っているのか。僕もなんか話に入ったりそこから派生した話をしたりなんかしちゃったりしようかな、と思うのだけど、バスケットボールをしている現場にサッカーのユニフォーム姿で乱入していきなり足でボールを蹴り飛ばそうとしているのではないかというくらいの違和感を感じて口を閉じてしまう。まず芝がない。僕は広大なフィールドの上の土や芝を駆ける靴を履いているのしな、と思ってしまう。もちろん、ボールを取ればいいってもんじゃないってことくらいはわかっているのだが、一生懸命話に耳を傾けても心が反応してくれないのである。たまに、いきなりバスケットボールを足で奪いとってそこがサッカー場ではないことを無視してドリブルをし続ける人物が紛れていることがあってなんだかうらやましい。